寺島文庫

火曜, 4月 30th

Last update木, 29 2月 2024 1pm

個人主義 VS. 集団主義

ペトラ・カルロヴァー(Petra Karlova, Ph. D.)

  近代における西洋諸国のアジア植民地化によって、アジア諸国に民主主義の思想が紹介されたことは歴史上よく知られています。自由民権運動によって、日本においても個人の意識が発展しましたが、徳川時代において確立された縦社会の概念が完全になくなったわけではありません。つまり、社会的な構造から見て、西洋と日本の民主主義には違いがあります。実は、欧米においても国によって民主主義のシステムが多少違います。簡単な例をいうと、アメリカでは裁判に訴える権利が広く一般的に行使されていること、フランスでは労働条件に不満を持てばストライキをする権利が行使されていることなどのような実態があります。いずれも個人の権利や自由を尊重する文化が基礎になっています。このような環境では、個人の権利・自由に対する配慮が自然と求められています。それに対して、日本は集団主義で、個人のことより全体のことを優先して考え、周りの人の目線を常に気にする考え方が特徴的です。日本人は直接争うことが苦手なので、裁判まで行くケースが比較的少ないようです。また、自分の都合によって顧客に迷惑をかけるのは許されないと考えるため、ストライキはあまり行われません。このような点で、西洋と日本は正反対といえます。

 しかし、欧米は個人主義だと言っても、国によって個人主義の程度に差異があります。イタリア、ギリシャなどの南欧やラテン系のアメリカは、集団主義の意識が強く、集団的な行動をとります。ただし、日本と違うところは、仕事より家族の方を重視することです。そして、ドイツ、チェコ、イギリスなど上記の国々より北に位置する国々は、個人主義が強く、プライベートを大事にする傾向があります。その結果、その人がどこに所属するかということより、まずその人の個性に注目するという考え方があります。実際に、推薦状や証明書は重視されていません。例えば、日本人の友人は、チェコに研究に行ったときにとても楽だったと語っていました。推薦状を持たなくても、直接研究所や資料館に行って、「○○に関心を持っています。」と内容を述べるだけで、すぐに対応してもらうことができたのです。
 
   一方で、日本では関係者からの推薦がないと、対応できないという場合が多くあります。やはり、社会的な構造から、所属が明らかでないと組織として対応できないという問題があるのです。このため、集団所属の意識が弱い国では、日本人が困惑してしまうことが多いようです。外国の会社で日本のやり方を導入しようと思っても、現地の人々が理解できないことであればその導入は困難です。例えば、日本では会社や学校ごとに旗や歌があります。これらは統一感という集団所属意識を象徴するものです。しかし、例えばチェコではこのような習慣がありません。これには、冷戦の終わりまで社会主義のイデオロギーを押し付けられ、上から指定された集団活動に対して抵抗があるという歴史的な背景があります。このため、例えばチェコのワーカーに職場で作業開始前に体操をさせることは困難です。チェコでは義務体育が高校までになっているため、体操を社内ルールにすると、未成年のように取り扱われ、いじめられていると誤解してしまうのです。あくまで社会文化の問題で、具体的な業務内容に必要がないのであれば、導入するのは難しいです。また、個人主義の社会は上下があまり確定されず、「お互いに」というルールが基本になるため、縦社会の人間関係は軽蔑と勘違いを生みやすいところがあります。