寺島文庫

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2012年第20号より

薬師寺・東京まほろば塾において 寺島実郎が講演を行いました!
2012年7月17日(火) 会場:日本橋三越劇場

 7月17日(火)日本橋三越劇場において薬師寺主催のまほろば塾講演会が開催され、約500人の満場の聴衆を対象に、寺島実郎が特別講演を行いました。
 薬師寺の安田暎胤長老による開会挨拶と、山田法胤管主の御説法に続き、寺島は自身の活動を振り返りながら、仏教や東洋的思想との関わりについて触れ、歴史の根底に流れるユーラシアダイナミズムに言及し、思想史から現代世界認識に至る講演を進めました。
 以下はその概略です。
 私が高校の修学旅行で奈良・京都を旅した際の記録帳が今も寺島文庫に残っている。当時管主だった高田好胤氏の説法を非常に懐かしく振り返りながら、今回講演にあたって薬師寺を訪れた。私自身は経済の現場を慌しく動いてきたが、海外で必ず目に付くのは、禅の教えを世界に説いた鈴木大拙の著作である。世界を舞台に活躍した大拙の境界体験に、私は共感を覚える。東洋的ものの見方の特徴は主客未分化=全体知にある。西洋の合理的思考が科学技術や人間万能主義に陥りがちであることは、震災後余計に胸に響く。
 仏教界で国際人の先駆者を挙げるならば空海だろう。高度な修行を修め帰国した天才的な宗教家であるとともに、土木や医学薬学等の技術を持ち帰った理科系エンジニアとしての空海像もある。彼が東寺に私学の祖に当たる種藝種智院を開設し技術の普及に努めた歴史も、大学学長を務める私にとって感慨深い。空海との比較で際立つのが親鸞の立ち位置だ。自らを愚禿と呼んだ目線の低さは、彼の絶対平等主義という圧倒的思想に繋がる。国家守護の仏教を民衆のものに変えパラダイム転換を起こしたのだ。浄土真宗の説く他力は逆説的な考え方であり、自力を尽くした極限の先に他力がある。
 また、薬師寺の持つしなやかな豊かさは今も般若心経に通じる。古来知的キャンプベースとしての薬師寺が果たしてきた役割は大きい。薬師三尊像台座に彫られた文様は、中国、ペルシャ、ギリシャに通じ、ユーラシアの風を受けて薬師寺が存在していることを強く実感する。ユーラシアをどう捉えるかという課題は、現代の我々にも重要だ。冷戦終焉を経て、今こそ我々は世界を正しく認識しなければならない。元来日本海はユーラシアと日本を密接に繋ぐ内海だった。
  冷戦後の米国一極支配から、多極化、今や無極化という全員参加型秩序の時代に至った我々が立っているのは、世界人口の爆発的増加と、2007年ピークアウト以降成熟化を迎える日本という二重構造である。この世界のダイナミズムの中心にユーラシアがある。大きな構想力を持って近隣諸国との相互理解を深める努力を脈々と続ける動きこそ、21世紀の日本の進路を定めるだろう。