寺島文庫

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両国の架け橋と板挟み:外資企業の希望と現実

ペトラ・カルロヴァー(Petra Karlova, Ph. D.)

   二カ国間、異文化間に立つ人は「架け橋」と言われています。例えば、新渡戸稲造は太平洋の架け橋になりたいと発言し、19世紀末・20世紀初頭の日米交流に大きな役割を果たしました。現代においては、国際協力の関係を築くことは当然なことになり、このような役割をしている人は非常に多く、自国の文化を他国に宣伝し、他国の文化を自国に紹介することによって両国の協力を促進するという異文化間の架け橋となっています。
  また、それぞれ国の文化は、社会環境としてその国の人々の行動に影響を与える重要な一面を持っています。そういった意味では、外国に出張、駐在する人々も自国の代表としてある程度「架け橋」の役割を果たさなければなりません。そして、その前提として、自国の文化を守りながら、他国の文化を尊重する必要があります。しかし、あまりに違いすぎる自国の文化と他国の文化の間で軋轢が生じた場合には、本人は板挟みになってしまいます。
 この板挟みの状況は、外資企業では珍しいことではありません。例えば、本社が予算を決めた後、支社のある他国の賃金水準が上がれば、その支社の現地従業員の間に不満が高まるという問題があります。外国の文化には、日本人のように我慢して、皆のために頑張る集団文化があまりないからです。

  2005年頃のチェコでも同様の状況が発生しました。ヨーロッパ全体が好景気で、チェコの経済成長率が伸びた結果、賃金水準は以前より高くなりました。この賃金水準の変化によって、ある日本企業では人材採用の面で非常に困りました。初任給が低いため、新人を募集しても、真面目に働いてくれる人材が入ってこないという問題がありました。それに、フォークリフト運転免許資格を会社の経費で取得した直後に退社して、給料が良いドイツ企業に転職した社員もいました。つまり、日本企業は他社のために無料人材教育を行うことになってしまいました。このような現実のために、支社の経営者は仕方がなく、初任給を上げることにしました。
 しかし、またそこで正社員の間で不満が発生しました。1年以上勤めている正社員の給料が新人の給料より低くなったため、次々に退社する人がいました。それまで西洋で転職が多いという認識がなかった日本人の経営者は悩んでいました。予算が限られていますし、昇給体制も守らなくてはいけないので、チェコの労働力市場に十分に対応できませんでした。また、本社からコストダウンに取り組まない、人事政策が悪いと批判されたのです。このように支社の経営者は、現場の実情と本社の組織との間で板挟みになってしまいました。
 この現状を本社に説明して、徹底的に理解してもらうまでに、仕事を辞めた優秀な支社の社員が多数いました。実は、当時の社員は、入社する際に日本人のマネージャーの口から「当社は従業員を大事にしています」と聞いて、安心していました。しかし、実際に働いてみると、昇給は一般的な状況と比較して遅れていただけでなく、自分より仕事ができない新入社員よりも低かったので、大事にされているとは感じませんでした。それより、支社の日本人に騙された・裏切られたという気持ちを持つまでになってしまいました。
 
   以上の問題から、架け橋になる人々は両国間の摩擦に耐えながら、現状を本社・自国に徹底的に伝えて、早く対応してもらう交渉能力が必須なことだと分かりました。またそこで、支社から情報を受け取った本社側は、自国と違う現象を認めることが必要です。日本で起こらないことであっても外国では充分に起こり得るのです。確かに、対応の面を考えると、両国の関係には他に様々な事情も影響がありますが、外国で活躍したいのであれば、その現状を実用的に取り扱わなければならないのです。