寺島文庫

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位置付けと役割を考えること―外国人にわからない日本の社会

ペトラ・カルロヴァー(Petra Karlova, Ph. D.)

  「日本人は個人として行動せず、確定された位置付けや役割を与えられたメンバーとして行動する」、これはパトリック・ラフカディオ・ハーン、バジル・ホール・チェンバレンなど近代日本で活躍した外国人が強く感じたところです。近代の典型的な日本人は、自分の人生を一つの組織の中で過ごし、その組織のために働くことで生きてきたのです。組織の存在は個人個人にとって必須な存在で、所属する組織の文化を徹底的に身につけることが当然に必要なことでした。この状況は現在でも多分に残っています。

  それに対して、西洋文化は民主主義の考え方が進化するとともに、自らの意思と希望で行動する個人主義が発展しました。そのため、現在も日本の一般的な文化を知らない外国人は、最初、相手の日本人を個人としてのみ扱い、その組織的な位置付けを意識しないことがあります。お互いの文化が違うため、人間関係の築き方も異なり、その結果コミュニケーションがうまくいかないことも多くあります。14年間日本で過ごし、小泉八雲になったラフカディオ・ハーンもイギリス人が日本人と話すと30分以上の会話をすることができないと指摘しました。

  現在も、外国人に会ったら何を話せばよいのか困ってしまう日本人がいます。同じように、日本に来て、日本人の友達がなかなか作れないと困っている外国人もいるのです。これは、異なる環境・文化の下で作り上げられた視野がそれぞれの環境・文化にしか通用せず、異なる環境・文化を持つ相手のことを少ししか理解できないからです。異文化交流はお互いに知り、理解しあうことが必須であるとよく言われますが、実際にはなかなか難しいことです。特に難しいのは、一定の年齢に達すると、基本的なこと、最も大事なことは自分がよく分かっていると思い込んでしまい、自分の環境・文化が当り前だと思ってしまうことです。それぞれの環境・文化の中では理由を意識せず行動していることもあり、環境・文化の異なる相手に説明することができない人も多いでしょう。

  現代では、日本の文化を外国人に紹介するためにどのようなやり方があるでしょうか。生け花、茶の湯、着物の着付けなどを体験させて、外国人に何が伝わるでしょう。生け花や着物が綺麗で、面白いという印象を与えることはあるでしょうが、日本的な組織や人間関係の文化についてはあまり伝えることはできないでしょう。日本人と一緒に生け花をして、時間を共にすることになってから、やっと人間関係の文化の違いを伝えることができるのです。

  帰化したラフカディオ・ハーンは武家の娘と結婚して、日本人と暮らすようになったおかげで、日本の他の外国人に分からない部分を解明しようと『神国日本―解明への一試論』などの本を執筆しました。歴史の視点からの説明が多いですが、この本を読むと、西洋人は日本に来て、何に注意すべきかを知ることができるでしょう。また、日本人が読むことで、日本人と付き合う外国人にどのような情報が欠けているのかを知る一つの手掛かりになり、外国人と理解しあうための第一歩になるでしょう。

  一方、自分の国のやり方が当り前だと考えている外国人も多いので、そのやり方と違うか、違うように見える場合には、日本のやり方に対して抵抗を感じることがあります。自分が正しいと思い込んで、日本人の方がおかしく見えてしまうのです。例えば日本人がチェコの便利なやり方でやればいいのではないか、私はそのやり方が便利なので日本人も同じようにすればいいのではないかと考えることがあります。しかし、これはチェコの文化からの視点で考えた場合であって、日本人にとっては便利ではないかもしれませんし、日本でできることではないかもしれません。このことを理解するためには、やはり環境・文化、つまり組織の状況を知ることが必要です。そのためには、日本人から色々と説明してもらうことが必要です。ただし、説明の仕方もなぜ(理由)、どのように(やり方)ということをはっきり伝えなければなりません。「ルールだから」や、「皆がそうやっているから」という理由は説明にならないからです。

  生まれ育った環境・文化が違うので、最初は色々理解しがたいかもしれませんし、理解できるようになるまでには人によって時間がかかります。したがって、長期的に付き合おうと考える相手には時間をかけることが大事です。20年以上日本の社会で成長してきた日本人と完全に同じようになることは期待できませんが、それでも、経験を積んだ外国人は、高い意識や集中力によって理解していくことができ、日本人の立場を考えることができるようになるでしょう。

  このように、日本の一般的な環境や組織文化の基本を理解した人には、それぞれの日本人の組織の中の位置付けを理解しやすくなります。そして、その組織のメンバーになるとしたら、自分の役割が何か、どのやり方でやればよいのかということを知ることができるでしょう。

  相互理解までの流れ
   ① 環境・文化が違うことを認識する
   ② 環境・文化がどう違うかを調べる
   ③ 相手がどのような情報を必要としているかを知る
   ④ 相手が自分からの情報を受け止めやすいような形で伝える
   ⑤ 相手が自分の環境・文化を理解したら、コミュニケーションが楽になる
   ⑥ 組織の構造や目的も通じ、組織内の役割も伝わる